LIFE! / ベン・スティラー

どこかで見たことあると思ったら、ロイヤル・テネンバウムに出てた人だ。なるほど、そしてベン・スティラー、名前は知らなかったんだけど「リアリティバイツ」の監督だったんだね。20年前だって、ワオ!評判が良かったので見に行ってみよう、と。音楽がJosé Gonzalezだったのも気になってたので久しぶりに映画館まで行ってみた。元旦に「グラヴィティ」見に行って以来だ。以下適当にネタバレもありますのでまだの人は動画の下からは要注意。


もうなんかすごく楽しかった。妄想癖のある男の人が、雑誌「LIFE」のネガ管理をしてて、それは多分一昔前はとても雑誌のコアな仕事だったんだけど、まあ時代とともにネガなんて見なくなってくるわなあ、と。雑誌も廃刊になってデジタル化されていく。スタジオボイスtumblrでやってるのとかと同じ。メディアはかわって行く。そのそもそもの悲哀みたいなものがベースにあって(でもそれは特に大きく取り上げられない)、著名な写真から最終号の表紙にと指定されたネガが見当たらないので探しに行くという冒険潭。シンプルな話。

映像がスタイリッシュで、自分の妄想の世界に浸ってハッと我に返ると「ちょっと、大丈夫?」見たいに回りに見られて、それが何度か繰り返されてそれがリズムを生んでるんだけど、会社を出てグリーンランドに向かったあたりからそれがなくなってくる。具体的には酒場で(カラオケバーって言ってたな)思いを寄せてる職場の同僚がギターを持って出てきてけしかけるように歌ったのが最後。あれ、そういえば妄想シーンが出てこないぞ?と。ところがそのシーンから一気に物語が動いて行くので序盤に妄想シーンが繰り返されていたことすら忘れてしまうくらい。事前の予告編で流れてたアヴェンジャーとかX-MENとかの予告ばりのアクションもあったのに、そういえばあれはどうなった?とふと思うけど、実際には物語が動いていてそれどころじゃなくなって、美しい映像自然の風景、とテンポの良いカットとJosé Gonzalezの気持ちいい音楽であっという間に時間が流れて行く。あとから思い出して「そういえば妄想シーンってなくなったよな」てなるくらいに。

現場から認められるきっちりとした仕事ができる男、でも仕事しかできない面白みのない出会いもない男が、有料の出会い系サイトに登録して、しかもそこで職場にいる同僚のきれいな女性にアプローチしようとするというもうどうしょうもない状態なんだけど、その出会い系サイトが後になって思うととてもいい役割になっていて、物語が動き出して、妄想癖がなくなって、ヒマラヤや火山に行ってサメに襲われても、ずっとウォルターに電話をかけてくる。しかもいいところで。そもそもウォルターが出会い系サイトでのバグを電話で確認して(という時点でいろいろおかしいんだけど)、それからまたその電話口の人から何度も何度も電話がある。「プロフィールを更新しました」とか「何か新しいことはありましたか?サメ?作り話はいらないんです」とか、いや、出会い系サイトならそれメールでやれよというようなことを電話で聞いてくる。いや、メールですらやらなくてもサイトの中で赤文字でアラート出しておけよと思う訳です。でも電話してくる。

その電話とサイトのプロフィール欄が一つの基準値になってて、「なんの取り柄もなく、特にどこか遠くに行ったこともない」と言ってた時は出会い系サイトのプロフィールには不十分で、一般のボーダーとのギャップの分だけ妄想に浸ってしまってる。まあそうだ、自分の人生に面白いことがなけりゃマンガなり映画なり自分の世界にガッツリはまるわな。それがどんどん動いて行くと妄想は弱くなり、しまいに妄想の世界に行くこともなくなる。でも電話はかかってくる。「ヘーイ、What's going on?」みたいなノリで。「いや、ヘリからダイブしてサメと戦ったよ」とか答えるようになると、やっぱり一般の基準値からは上に行くので(そりゃそうだ)サイトの人も驚く。そうすると、自分のリアルが基準値を超えて映画の世界みたいなことになってくるので妄想がなくなる。ヒマラヤのてっぺんでもなり続ける電話が、妄想の上を言ってるってことを如実に教えてくれる。なるほどなー。リア充で「ウェーイ!」とか言ってる人にはそういう世界は不要だということだ。そりゃそうだ。


映像がスタイリッシュ、自然は美しく、音楽もかっこいい。でもそんなにスムーズでもなく、ネガは結局見つかるけれど仕事はクビになる。それでもなんだか全体的にいい感じで終わって、きれいには終わらないんだけど妄想の世界の中みたいなところに自分がいるという感じが、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」がハッピーエンドになっちゃったみたいな感じでそれはそれで面白い。うむ。


この映画で残念なことが2つあって、それは両方とも広告とかプレスとかのことなんだけど、1つはテレビCMで日本語吹き替えやってるナイナイ岡村さんが出てることで、それだけでなんかコメディっぽくなってるというかドリームワークスのそんなにかわいくないCGアニメみたいななんかそんな空気感があること。ちがうなー、タレントならせめてブラマヨ小杉使うくらいの感じにしてほしかった。「ソーシャルネットワーク」はサバンナ高橋使ってたのになあ。もう一つ残念なのはサイトのデザインとかコピーの問題で、タイトルも「LIFE!」ってなっててもうなんかLIFE誌の話そのものみたいになってるけど、英語タイトルは「The Secret Life of Walter Mitty」で、いわゆる映画の邦題自体を否定するつもりはないけど、タイトルの意味とかそういうのが欠けてしまうのがもったいない。Secretってことは、妄想の世界のことだろうから、やっぱりその中に生きているんじゃないか、とかさ、例えば。

サイトのデザインも元のサイトがパララックスでかなりかっこ良く作ってて、ポスターとか面白いんだけど、日本のサイトになると「生きてる間に、生まれ変わろう」ってサブタイトルとか、「この映画には『!』がある。」とか意味不明で、生まれ変わるとかそういうことでもないんじゃないかなーと思ったりして。「これはあなたのための映画です」って言われるんだけど、どのへんがそうなのかはよくわからんかったなーと思って。日本で公開される海外の映画はこんなふうにしなきゃいかんのだろうか。元のサイトがよっぽどかっこいいだけに。そっちの方が映画の感じ出てるんだけどなー。


まあ、とにかく楽しかったですよ。ネタバレさんざん書いたけどまだの人はぜひ。奥様も実家で見てきたようなので帰ってきたらいろいろ話したい。