風立ちぬ/宮崎駿 (ネタバレ含む)

気になってたので見てきた。我が家の映画で一番多いのは夏休みや年末の映画を、奥様と子供が帰省したタイミングでそれぞれが別々に見に行く、という。僕も気兼ねなく出かけられるし、映画好きの奥様も子供寝かしつけてからレイトショーで家を出やすい。よいことです。しかし、宮崎アニメを劇場で見るのって、多分もののけ以来じゃないかな。というか、トトロは小学生だったけど映画館には行ってなくて、「トトロの映画の次回作!」のノリで「魔女の宅急便」見に行ったのが最初。で、多分今回ので3回目だ。ひええ。

例によって個人的な記録のために書いてるブログなので気にせずにネタバレ含めて書くけど気にしないでください。えー、やだよーってひとはまた改めて。

うまくまとめられないので散文的になるけど、とりあえず思ったことを書いていきますよ。


公開のタイミングで機関誌に発表された九条や竹島の諸々の発言が、タイミング的にどうよと思わなくもないのだけど、それはまあさておき、一旦切り離して映画をみよう、と。評判は友達とかネットでも割れてるけれど。で、改めて見てみると、なんというか見事に零戦の話しなのに戦争の話しではなくて、純粋な愛情と情熱の話しで、空を飛ぶ美しい物体に魅せられた成年の話し。実話とファンタジーの部分をあまり気にせずに見ていたので特に「零戦誕生秘話」とも思わなかったし、なによりも全然戦争讃歌ではない。簡単に言えば「飛行機バカ」の仕事と恋の話しだし、いや、実際それ以上でもそれ以下でもないような。

でもいくつも心に響くシーンがあったし、アニメーションの描画もやっぱりジブリはというか宮崎駿はというか、素晴らしいなあと思ったのです。最初に飛行機で二郎が空を飛ぶシーンではっきりと夢のシーンとそれが分かるようになってるし、田舎の実直に美しいものを夢見ている少年が、大きくなって庵野秀明の棒読みと散々バカにされてる演技でその実直さや朴訥とした感じがきちんと表現されてる。「声優のそれっぽい声」ではなし得ない感じだよなあ、これ、と思ったりして。

全体的に、兵器マニア、軍隊オタクの宮崎駿らしい、愛情を余すこと無く「どやー!!!」って振りまいてる感じがして、そういうのを見てるとどこかで見かけた「軍ヲタは兵器が傷つくことを嫌うので反戦の人が多い」ってのがそのままでとても分かりやすい。「戦争なんかして兵器が壊れでもしたらどうするんだ!」ってやつね。近眼でパイロットにはなれないという二郎、美しい戦闘機を作るために部品でどれだけの子供を食べさせることができるかということが分かっているけど切り離して考えている本庄。「兵器を作ってこの戦争をうんたらかんたら」ではなくて、シンプルに「かっこいい飛行機作りたい」てだけの技術者。そうそう、技術者とか制作のスタッフってそうなのよ、とディレクターなりにニヤニヤしながら見てたりして。


空想の「かっこいい飛行機」が駆け抜けていくシーンはナウシカメーヴェみたいだったし、トルメキアの飛行機やガンシップを彷彿とさせる感じとか、ああ、やっぱり宮崎駿はこういうの好きなんだなあ、と。その辺が変に子供寄りになってなくてすっきりと大人向けのアニメになっていてみやすかったのも良かったな。兵器というリアルな暴力性をファンタジーの世界とキレイに切り分けて、しかも暴力そのものを描くのではなくてそれすら切り離して純粋な技術と情熱だけを抽出して描いてる。ナウシカは暴力とファンタジーをキレイに織り交ぜてて、しかも原作のファンタジー性の強い部分だけを映画にしてるからくどくなくて分かりやすい話しになってて、紅の豚はけっこうしっかりと暴力を書いてるけど豚になることでファンタジーにしか見えない、みたいな雰囲気で、そして風立ちぬは暴力は切り離してファンタジーでもってリアリティをとてもリアルに描いてる。地震のシーンもそうだな、リアルに描きすぎないから余計リアルに心情に届いた。

あと、カプローニ氏がいう「創造的人生の時間は10年間だ」という劇中の台詞が胸にズキュンときて、しばらくちょっと映画に集中できなかったなあ。君の10年はどうだった?いや、創造的人生か、さて、僕に取ってそれはどうだろうか。生きるとか好きだとか、そんなようないくつかの命題が完全にその台詞以降ふんわりとしてしまって困っていた。むむー。もうすぐ36になろうとしているけれど、自分で考え、踏みしめて力を入れて生きていたのはそのうちどのくらい、いつからのことだろうかなんて考える。10年かー、まあそうなのかもしれない。

風は立っているか。Le vent se lève, il faut tenter de vivre. 「いきやめも」って言われてもこれ見事にピンと来ないのだけど、「生きようとしなけりゃならん」てことだよね。il faut、は非人称で「しなくちゃいけない」で「もう行かなきゃ」とか「明日早いから寝なきゃね」みたいなあれ。tenterは「〜しようとする」試みる、だ。むむ、、、、風が立っている(ここがポエティック)から、生きようとしなけりゃならない。だから「生きて」っていうんだよ。アシタカも「生きろ」って行ってたしな。ナウシカも言ってたな、風の谷で。その風が結局10年くらいしか吹かなくて、その間になんとか必死に生きなくちゃいけないんだよな。むむー、全然子供向けじゃない。あくまで、リアルすぎないために、またはリアリティを増すためにファンタジーがちりばめられているんだけど、いやあ、全然ポニョとかトトロとか期待して来る親子連れはカウンターパンチくらうよこれ。金曜ロードショーラピュタやってたけど、いや、ここは紅の豚やっとくとこだったんじゃないのかなあ。


見る人、思うこと、年代や境遇、主義主張でいろんな見方があるだろうけど、真ん中にあるものは本当にシンプルで「美しいものを作りたい」という技術者の気持ちなんだよなあ。端からみてたら届きにくいくらいにシンプルなやつ。タバコのシーンに賛否両論とか、ほんとうにつまらん。ま、感想や意見はそれぞれなのでそれはまあどうでもいいんですよ。僕はすごく楽しかったし心を打つシーンが多かったし、途中サマーウォーズっぽいなと思ったりおおかみこどもっぽいとかナツキ先輩っぽいとか節子おるとか思ったけど、全体としてすごく宮崎駿らしいし、風景や情景の描き方が本当に美しい。いやー、楽しかったなあ。また見たい。できるなら劇場にもう一度足を運んでみたい、と思う映画でした。